FXでよく耳にする「スキャルピング」という言葉。ここではその意味やメリット、デメリットなどを解説します。
スキャルピングとは
スキャルピングとは数秒・数分といった単位で繰り返し売買を行い、少しずつ利益を得ていくFXの手法で、短期的な取引スタイルの1つです。数秒~数分といった時間で1日に何十回と売買を繰り返し、小さな利益をコツコツと積み上げていきます。小さな変動幅から利益を狙うため、トレードの回数が多い手法です。
長期で保有するより損益の変動が少ないため、相場の変動要因を分析するファンダメンタルズ分析よりも、相場のパターンや値動きを分析するテクニカル分析の要素が重要になります。相場分析の方法は、デイトレードやスイングトレードと大きく変わりませんが、スキャルピングは反射神経と判断力が求められる取引と言えるでしょう。
FXには様々な取引スタイルがありますが、明確な定義はありません。取引にかける時間が長くなるほど取引の回数は減り、下記のように分類されています。
(1日の中で何度も売買を繰り返し、短期取引と呼ばれるものがスキャルピング、デイトレードです)
スキャルピングのメリット/デメリット
メリット
・資金効率が良い
トレード回数の多い短期売買は、長い期間にわたって資金を寝かせることなく、少しずつ利益を得ていくことができます。そのため、資金効率が良いと言えるでしょう。また、スキャルピングでは長期に比べて値動きが小さく、相場変動リスクを回避しやすい特徴があります。
・損失の幅が予想しやすい
長期間保有すると、値動きも大きくなりがちです。これに伴って損失も大きくなりがちですが、短期保有は長期に比べ損失も少なく、長期に比べ損失の程度も予想しやすいと言えます。損失の幅が小さく予想しやすいことは、ロスカットが起きにくいというメリットでもあるでしょう。長期保有の場合より、高いレバレッジをかけて取引を行うことができます。
・FXの経験を積みやすい
取引回数が多いため、FXの経験値が積み重ねやすいとも言えます。FXはチャートの分析に対し、実際の値動きがどうなるかを見て予想と実際の値動きとの乖離(かいり)を経験したり、チャート分析に慣れたりすることで予想の精度が上がっていきます。
スキャルピングのように短時間で売買を繰り返していると、分析に早く慣れることができるでしょう。また、長期取引に比べて画面に注目している時間が長いため、トレードの時間を取りやすい人向きとも言えそうです。
デメリット
・取引コストが大きくなりやすい
FXでは、スプレッドという取引コストが取引ごとに発生します。取引回数の多いスキャルピングでは、その分だけスプレッドの負担が大きくなります。主にスキャルピングでトレードを行う場合には、できるだけスプレッドが小さいFX会社を選ぶと良いでしょう。
・集中力と判断力が必要
短時間で素早く売買を行うため、集中力と判断力が必要です。相場の上下を見ていると、どのタイミングで売買すれば良いか迷う場面があります。あらかじめ損切や利益確定のポイントを決めておき、感情を無視して機械的に取引していくことも大切です。
・通信環境の影響を受ける
通信環境の影響を受けやすいという点もあります。スキャルピングは一瞬の時間差で損益が変わります。通信速度が遅いことで売買のタイミングが遅れると、利益を逃したり損失を出したりしてしまうことがあるでしょう。
そのため、できるだけ通信障害が起きにくく、注文が素早く反映されるように環境を整えておくようにしましょう。長期取引ならばスマートフォンのアプリでも問題はありませんが、スキャルピングを行うにはモニターを複数設置するなど、設備にもお金がかかります。
スキャルピングには集中力が必要なので、体力的にも精神的にも負担が大きくなります。落ち着いて相場に集中できる、時間に余裕のある人が向いているでしょう。
また、短期間の値動きは小さく、損失も抑えられる反面、利益も小さくなってしまいがちです。そのため、ある程度大きな資金を元手にしないと利益が出にくくなります。レバレッジをかけ過ぎても望まないタイミングでロスカットされることになることもあり、資金を多めに準備しておく必要があります。
スキャルピングに向いている人/向いていない人
スキャルピングに向いている人
・トレードに割ける時間が多い
スキャルピングに向いている人の条件として、トレードに割ける時間が多いことがあります。画面に集中して小さな利益を積み重ねていきますので、取引時間はどうしても多くなるためです。
・集中力が高い
スキャルピングは、小さな値動きで小さな利益を積み重ねていきますので、売買のタイミングが重要です。そのため、集中して値動きを見ることができる人が向いているでしょう。
・機械的な判断ができる
投資において、人の感情は誤った判断を招いてしまう要因にもなり得ます。スキャルピングにおいては瞬時の判断がポイントになりますから、機械的に利益確定や損切ができる人が向いていると言えそうです。
・短時間で大きな成果が出したい
長期的に値動きを見て成果を出すスタイルではなく、短期的に小さな利益を積み重ねていくのがスキャルピングです。長期的に利益を狙うのではなく、短時間で大きな成果を出したい人に向いているでしょう。
・チャートを見るのが好きな人
長期取引に比べ、スキャルピングやデイトレードはチャート分析が重要です。そのため、チャートを見て分析することが得意な人、好きな人が向いていると言えそうです。
スキャルピングに向いていない人
・集中力がない人
集中力が必要なスキャルピングでは、集中して相場を見ていられない、他のことに気が散ってしまう人には向いていないでしょう。特に何か他のことをしながら取引しているような場合では、取引に集中できなくなります。
・判断や決断に自信がない人
一瞬の判断が大切なスキャルピングにおいて、判断や決断に自信が持てない人は向いていません。初心者は特に自信を持てない人も多いため、ある程度慣れるまでは小さな金額で、小さいレバレッジで始めてみると良いでしょう。
スキャルピングでよく使われる分析の手法
トレンドライン
相場の方向性を分析するにあたって、チャートに引く線を「トレンドライン」と呼びます。線を引くことでトレンドを分析でき、知識がない初心者の方でも使いやすい相場分析の手法です。
トレンドラインには、上昇トレンドの際に下落から上昇に転じるポイントを結ぶサポートラインと、下降トレンドの際の上昇から下落に転じるポイントを結ぶレジスタンスラインがあります。これらのパターンから、売買のタイミングを見定めていくのです。
移動平均線
移動平均線とは、ある一定期間の相場から平均値を算出してグラフで表したものです。その日以前の過去数日間、数週間かの価格を計算するため、平均値が移動していくことから移動平均線と呼ばれます。トレンドや相場の方向性を見るために活用されているものです。
ボリンジャーバンド
移動平均線と標準偏差の計5本から構成されているのがボリンジャーバンドです。標準偏差とはデータのばらつき具合を表す値で「σ(シグマ)」で表示されます。
ボリンジャーバンドは、移動平均を表す線とその上下に値動きの幅を示す線を加えた指標で、相場がこの範囲に収まるという統計学を応用したテクニカル指標の1つです。標準偏差1の範囲に価格の値動きが収まる確率が約68%、標準偏差値の範囲の2倍までの範囲に収まる確率が95%とされていて、確率から相場を分析します。
スキャルピングのコツ
・利益/損失確定の判断を素早く行う
スキャルピングはタイミングが非常に重要です。そのため、あらかじめ定めた値動きになったら利益確定や損切の判断を素早く行い、機械的に取引しましょう。
・取引コストが低い環境を準備する
売買を繰り返すスキャルピングにおいて、取引コストは大変重要です。できるだけコストが低いFX会社を選ぶと良いでしょう。
・通貨ペアの特徴を把握する
長期取引にも言えることですが、通貨ペアの特徴を把握し、値動きが活発になりやすい時間を把握しておきましょう。短時間で値動きが小さいために、あえて値動きが大きな通貨ペアを選ぶのも1つの手段です。
・自分で決めたルールを守る
繰り返しになりますが、スキャルピングは売買のタイミングが非常に重要で、感情に流されて迷っている時間はありません。あらかじめ自分でしっかりルールを決め、それに従って機械的に取引することが重要です。
まとめ
スキャルピングについて詳しく解説しました。画面の前で集中して売買を繰り返すスキャルピングは、多くの人が持っている投資のイメージに近いかもしれません。投資はどちらかと言えば、長期的にじっくり利益を狙うスタイルが基本です。しかし、短期間での売買を狙っていきたい人に、スキャルピングは有効でしょう。
また、短期取引においてはチャート分析が特に重要です。スキャルピングほどに頻繁に取引しないデイトレードにおいても、チャート分析の練習のために、まずはスキャルピングを少額から始めてみるのも良いでしょう。ご自身の生活スタイルや性格に合った取引スタイルがありますので、ここで取り上げた内容を参考に、ご自身に合った取引スタイルを選んでください。
監修者プロフィール
小川 洋平(オガワ ヨウヘイ)
日本FP協会認定 CFP®、合同会社clientsbenefit 代表、FP相談ねっと認定FP、SG中越代表
<プロフィール>
25歳でお金の知識・営業経験ゼロから保険営業の世界に飛び込み6年半従事。2年目に将来の資産形成のため金融知識が必要なことに気が付き、FPの勉強を始めて金融・経済の知識を学ぶ。その後、保険に限らずあらゆるお金の面でクライアントにとってベストな提案をしたいという想いで、商品販売ではなく相談業務を開始。2013年より資産形成の考え方に関するセミナーを自主開催。その他、大手金融機関からの委託により実施。現在は小規模事業者の年金や資産運用のサポートを中心に相談・経営支援の業務に携わり、確定拠出年金など起業家の将来の資産形成と経営のサポートを行っている。投資信託や資産形成の分野を得意としている。