テクニカル指標はたくさんありますが、ポピュラーなテクニカル指標の1つが、ここでご説明する移動平均線です。
移動平均線とは
移動平均線とは、ある一定期間の価格から平均値を計算し、折れ線グラフで表したものです。移動平均線は代表的なテクニカルチャートの1つで、テクニカル分析の中でもっともポピュラーで基本的な分析手法になります。価格の傾向や流れなど相場の方向性を見る手掛かりとなり、直感的に把握できるので非常に便利なテクニカル指標です。
移動平均線の歴史は古く、1920年頃にアメリカで開発されたと言われています。同時期に日本でも「からみ足」という名で移動平均線があったともされ、2つの説があります。
移動平均線が一般に知れ渡ったのは、1960年にアメリカのアナリストであるグランビルが、移動平均線をまとめた解説書「グランビルの法則」を出版してからです。非常に歴史が古いテクニカル指標ですが、現在もポピュラーなテクニカル指標として使われているのは、「使いやすくわかりやすい。そして精度が高い」からでしょう。
移動平均線の特徴
移動平均線にはいくつか特徴がありますが、特に重要な役割は価格の動きをなめらかにすることでしょう。代表的なテクニカル指標であるローソク足は、上がったり下がったりするのでトレンドがつかみにくい欠点があります。
しかし、移動平均線にするとローソク足が平均化されてなめらかな動きになるため、トレンドがわかりやすくなります。FXや株式投資において、トレンドを正確につかむことは非常に重要です。そのため、移動平均線は多くの投資家から重宝されています。
移動平均線は過去の数字を平均化したものですが、この平均化した線にはどのような意味があるのでしょうか。ここでは、5日移動平均線を例にとって考えてみましょう。
5日移動平均線とは、当日を含め過去5日間の平均値を当日の位置に置いてつなげて描いた線であり、当日を含めた過去5日間の平均値の推移になります。移動平均線のもっとも一般的な見方は、過去5日間の平均値と当日の価格を比較することでしょう。過去の一定期間の平均値と現在の価格を見比べることができるので、客観的に現在の価格の分析が可能です。
例えば、当日の価格が5日移動平均線よりも上にある場合、過去5日間に買っているトレーダーは利益が出ていることを示します。逆に当日の価格が5日移動平均線より下にあれば、過去5日間に売却しているトレーダーは損失が出てしまっていることになるのです。
また、「買い」のポジションを持っているトレーダーがプラスで今後も「買い」ポジションにとって有利な傾向の可能性が高そうであれば、さらに追加を検討するトレーダーが多くなるでしょう。
こういう局面であれば「売り」ポジションを持っているトレーダーが損切りして「買い」ポジションへの転換を検討することにより、さらに価格が上がる可能性も考えられます。あるいは「買い」ポジションの利益がある程度のってくれば、利益確定の売りを考えるかもしれません。
このように移動平均線を分析すれば、トレーダーの様々な心理状況がわかります。しかし、この移動平均線は、決して万能なテクニカル指標ではありません。例えば、価格の変動に対して移動平均線の反応が遅れ、シグナルの発出にタイムラグが発生するかもしれませんし、いわゆる「ダマシ」が発生することもあります。
なお、ダマシとはテクニカル分析において、移動平均線などテクニカル指標が買いサインや売りサインなどシグナルを発したものの、反対の動きをすることです。テクニカル分析においてダマシはつきものになります。移動平均線に限らず様々なテクニカル指標を組み合わせて利用し、テクニカル分析の精度を上げるのが一般的です。
移動平均線の種類
移動平均線といってもいくつか種類があります。ここでは、移動平均線の代表格である単純移動平均線と指数平滑移動平均線についてご紹介しましょう。
単純移動平均線(SMA)
一般的に、移動平均線というと単純移動平均線を指します。これは一定期間の終値を平均化しただけの単純な移動平均線です。
単純移動平均線はもっともよく利用される移動平均線で、一般的に5日、10日、13日、21日、25日、50日、75日、90日、200日などの期間でよく用いられます。ローソク足チャートと移動平均線で、大まかなトレンドを知ることが可能です。
移動平均線が上向きで、かつローソク足チャートが移動平均線より上に出ている場合は上昇トレンドです。そして移動平均線が下向きで、かつローソク足が移動平均線より下に出している場合は下降トレンドとなります。移動平均線が横ばいでローソク足チャートも移動平均線の上下を行き来しているような場合は、もみ合っていると見ることが可能です。
指数平滑移動平均線(EMA)
単純移動平均線よりも、直近の価格に比重を置いて算出した移動平均線です。直近の価格が過去の価格より影響力が大きいと考えられているためにできた移動平均線で、市場の変化をより早く示す移動平均線となります。高値局面で指数平滑移動平均線が上昇から下降へ反転したら「売りシグナル」、安値局面で指数平滑移動平均線が下降から上昇に転じたら「買いシグナル」と言われています。
加重移動平均線(WMA)
加重移動平均線は直近の価格に比重をかけて算出され、価格に対して反応が早いのが特徴です。一般的に、緩やかに株価や為替が上昇もしくは下落する時に力を発揮すると言われています。しかし相場が急変している、あるいはレンジ相場の際は力を発揮しづらい側面もある点に注意してください。
移動平均線の期間の違い
移動平均線の期間には、日足(ひあし)・週足(しゅうあし)・月足(つきあし)で以下のように異なります。
・日足チャート:1日の株価や為替の動きを示したチャート
・週足チャート:1週間の株価や為替の動きを示したチャート
・月足チャート:1ヵ月の株価や為替の動きを示したチャート
一般的に、日足チャートは数日から1ヵ月程度の投資に使われることが多くなります。そして週足チャートは数ヶ月から2年程度、月足チャートはそれ以上の長期投資に利用されることが多いでしょう。ご自身に合った期間の移動平均線を使うようにしてください。
移動平均線の使い方
移動平均線の計算式はある一定期間をn日間として、n日間の終値を平均しチャート上に表示します。日々の値動きを線で表すことで、株価の方向性や転換点を見つけやすくなっているのです。
移動平均線の代表的な使い方は、ゴールデンクロスとデッドクロスです。ゴールデンクロスとは短期の移動平均線が長期の移動平均線を下から上へクロスすることで、買いのサインと言われています。
これに対して、デッドクロスとは短期の移動平均線が長期の移動平均線を上から下へクロスすることで、売りのサインと言われているものです。ここで、ゴールデンクロスとデッドクロスを使った代表的な手法についてご紹介しましょう。
ゴールデンクロスもデッドクロスも、期間の違う2本の移動平均線を同時に見ることで、その重なりや離れる様子から値動きのトレンドを見つけるというものです。短期線と中期線の2本で分析するのが一般的で、投資法に合わせた期間設定が重要となります。
短期線が中期線を下から上に抜けた時が買いシグナル、すなわちゴールデンクロスになり、短期線が中期線を上から下に下抜けた時が売りサインとなります。これがデッドクロスです。
ゴールデンクロスとデッドクロスを判断する際は、中期線の向きも重要です。中期線が上向く前のゴールデンクロスや下向く前のデッドクロスは、一時的な値動きでトレンド転換にならないことが多いと言われています。トレンドの大まかな方向性を示す中期線の向きにも注意しましょう。
また、移動平均線を使う際には上値抵抗線と下値支持線も大切です。以下に意味を記載しますので、覚えておきましょう。
・上値抵抗線:この位置まで価格が上昇すると上値が抑えられる位置
・下値支持線:この位置まで価格が下落すると下げ止まるか反発に転じると見られる位置
最後に、移動平均線を利用した代表的な分析手法である「グランビルの法則」について説明します。グランビルの法則は移動平均線の傾きと価格の位置関係に着目した分析手法で、移動平均線を使った売買判定の基本となる重要なものです。
使用する移動平均線は中期線で、21日、50日、90日、200日などがよく用いられます。それでは、買いポイントと売りポイントそれぞれについて見ていきましょう。
買いポイント
① 移動平均線が下落した後、横ばいまたは上向きに転じた時に、価格が移動平均線を下から上に突き抜けた場合
② 移動平均線が上向きの時、いったん価格は下落し移動平均線を下回るも再度上昇し、移動平均線を下から上に突き抜けた場合
③ 移動平均線が上向きの時にいったん価格は移動平均線の手前まで下落するも、移動平均線を下抜けることなく再度価格が上昇する場合
④ 価格が移動平均線の下に大きく乖離(かいり)した場合
売りポイント
⑤ 移動平均線が上昇した後、横ばいまたは下向きに転じた時に価格が移動平均線を上から下に抜けた場合
⑥ 移動平均線が下向きの時に、いったん価格が大きく下落し再度上昇し移動平均線を上抜けした場合
⑦ 移動平均線が下向きの時に、いったん価格が上昇するも移動平均線の手前で止まり再度下落した場合
⑧ 価格が移動平均線の上に大きく乖離(かいり)した場合
このようにグランビルの法則はわかりやすい投資手法のため、投資初心者の方にもおすすめです。
まとめ
移動平均線について詳しくご説明しました。移動平均線は数あるテクニカル指標のうち、もっともポピュラーなテクニカル指標の1つです。また、視覚的にわかりやすく簡単に利用できることから、根強く人気のあるテクニカル指標でもあります。移動平均線を使ったテクニカル分析の方法はたくさんありますが、ぜひご自身に合った分析方法を見つけて活用してみてください。
監修者プロフィール
渡辺 智(ワタナベ サトシ)
FP1級、証券アナリスト。
<プロフィール>
大学商学部卒業後は某メガバンクに11年勤務し、リテール営業やプライベートバンカー業務、資産運用コンサルティング(投資信託、保険、債券、外貨預金など)、融資関係業務(アパートローン、中小企業融資)などを経験。銀行在籍中、2度の最優秀営業賞を受賞。銀行在籍時の金融商品販売額は500億円を超え、3000人を超える顧客に金融商品営業を行う。その後、外資系保険会社でコンサルティング営業として従事し、現在は業務経験・知識を活かして金融ライターとして独立。難しい金融を分かりやすく伝えることをモットーに活動中。